ギリシャの財政問題について(2010年3月) |
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1.ギリシャ財政悪化の発端と経緯 (1) 2009年までの経緯 ギリシャ経済は比較的健全な金融部門の存在などもあってここ数年プラス成長を継続しており、金融危機にも拘わらず 2008年もプラス成長を保っていた。しかしながら、2009年10月の政権交代後、現政権は前政権が財政赤字を過小評価していたとして、2008年財政赤字を7.75 %へ引き上げるとともに、2009年財政赤字も12.7%となる見込みである旨表明し、ギリシャ政府へのEU及び市場の信頼が失墜した。また、ドバイ問題の影響から投資家によるリスク回避の傾向を示され、ギリシャ国債の金利やCDSスプレッドも上昇し、昨年12月には、大手格付会社3社によりギリシャ国債の格下げが行われた。*a ギリシャの財政赤字は従来からの構造的問題により生じており、今回、統計修正を機に表面化したものと考えられる。また、 2009年以降は経済成長率もマイナスが予想され、金融危機による影響が観光客減少等を通じて波及しつつあることも財政問題に対する懸念材料となっている。 (2)統計修正 欧州委員会やユーログループ関係者は、ギリシャの度重なる財政赤字の上方修正に対して苛立ちを露わにしており、これまで統計局が財務省内に設置されていたことも政治的意図による改竄の疑いを惹起した。 現政権は、統計修正について ①予想を上回る景気減速、②前政権による選挙対策のための大幅な歳出拡大、③医薬品の支払いなど一部歳出に計上していなかったことの三点を原因として説明し、 統計局の独立強化を行うなど信頼回復に努めている。 (3)構造問題 ギリシャは公務員比率が非常に高く、経済危機においては失業率の激増やGDP成長率の激減を押さえる役割を担ってきたが、財政悪化の一因ともなっている。闇経済の存在も大きく、一説にはGDPの30%は超えると推測される。また、複雑な年金制度や公的部門の民営化の遅れ等の社会基盤制度に問題点も多い。 5月には年金制度改革等の構造改革方針が示される予定であるが、ストライキ等抗議活動が比較的頻繁なギリシャにおいて、今後どこまで構造改革や民営化に踏み込めるかもまた財政改善の鍵となる。 (4)最近のEUの動き ギリシャの財政問題を端に発した信用不安でユーロ相場下落が生じており、他のユーロ国への問題波及が懸念されているが、EU又はユーロ参加国が他のユーロ参加国への財政支援実施可能となるルールは存在しておらず*b、特に今後財政問題が懸念されるスペインやイタリアはギリシャに比べ経済規模が遥かに大きい*c こともあり、EUによるギリシャへの対応が注目された。 2月のEU緊急首脳会合においてはEUによるギリシャ支援が合意され、具体的支援策の議論が期待されたが、同月開催されたユーログループ会合及び財務大臣会合においては、ギリシャへ自助努力強化を求めるにとどまり、具体的な支援策は持ち越しとなった。2月後半には、欧州委員会、欧州中央銀行及び IMF の合同調査団がギリシャを訪問し、現在の安定成長計画を支持する一方で、2010年の対GDP財政赤字比率の低下は2%程度と予想されるため、およそ48億ユーロ分の赤字圧縮に向けた追加的措置を要請した。当該要請を受けて公表されたギリシャ政府による追加的経済措置は、概ねEU関係者から評価されている。 ギリシャは一貫して資金援助ではなく、資金調達コストの低下のための協力を求めていたが、3月のユーログループ会合や財務大臣会合の後、 EU首脳会合において、仮に市場での調達ができなくなった場合の最終的手段として、 IMF とユーロ参加国による協調融資を行うで合意されている。報道によると、当該融資額は200~220億ユーロ規模で、3分の2をユーロ参加国で融資すると想定されている。
*c EUROSTAT によると、2008年におけるユーロ圏に占めるギリシャGDP割合は約2.6%、イタリアは17%、スペインは11.7%。また、ギリシャ政府債務残高の割合は約3.7%。 2.ギリシャ政府の対応 (1)安定成長計画の提出 1月、ギリシャ政府は、2009年対GDP比12.7%の財政赤字を、2010年8.7%、2011年5.6%、2012年2.8%、2013年には2.0%まで削減する旨を明記する安定成長計画をEUへ提出している。 ①財政赤字 2009 年対 GDP 比 12.7 %の財政赤字を、 2010 年 8.7 %、 2011 年 5.6 %、 2012 年 2.8 %、 2013年2.0 %まで削減する。 ②政府債務 2008年対GDP比99.2%から2009年は113.4%となったが、今後も暫く上昇し、2010年120.4 %、2011年 120.6%と予測され、2012年初旬より債務減少となる。 2010年に予想される政府借入は532億ユーロとなっている。 ③ 2010 年歳入増加項目 新課税率導入により11億ユーロ、新規不動産税により4億ユーロ、酒・煙草等増加により7億1000万ユーロ、脱税取締りにより12億ユーロ、公共投資計画等に対する EU ファンドから 9 億 3600 ユーロ、企業及び不動産所有者に対する特別課税により13 億3000ユーロが計画されている。 ④ 2010年歳出削減項目 政府関連給与10%削減により6億5000万ユーロ、年金の政府助成縮小により5億4000万ユーロ、公務員雇用凍結により1億5000万ユーロ、公的機関契約雇用者削減により5000万ユーロ、運営経削減により3億6000万ユーロなどが計画されている。 ⑤その他 経済成長率は2009年の-1.2 %以降、2010年-0.3%、2011年1.5%、2012年1.9%、2013年2.5 %と見込んでおり、失業率は、2009年9.0 %から 2010 年 9.9 %、2011年及び2012年には10.5%まで増加し、2013年から緩和され10.3%と予想されている。 (2)追加的経済施策の公表 1月中に、酒20% ・煙草10%増税や相続・遺贈に関する増税等が実施されるとともに、2月初めには、燃料増税及び公務員賃金増凍結の追加的施策、課税減免特別規定廃止や新税制の具体案が公表された。また、欧州委員会、欧州中央銀行及びIMFの調査団のギリシャ訪問後の3月に新たな追加的経済施策を公表した。これにより、国内的にはストライキやデモが多発したが、世論調査では今回の追加的施策をやむを得ないとし、ストライキやデモを支持しない反応が高い。 ●追加的経済施策概要 歳入面(対 GDP比1%、24億ユーロ相当)
歳出面(対GDP比1%、24億ユーロ相当)
3.ギリシャ金融関係分野 (1)金融機関の状況 欧州中央銀行(ECB)では、現在の受入担保の最低基準BBB- を2011年からA- に引き上げることとされていたため、大手各付会社二社からA- 以下の格付けとなっているギリシャ国債も今後更に状況悪化した場合、ECBによるギリシャ国債引受が困難となり、ひいてはギリシャの各銀行の資金調達、産業界全体への資金流動性に問題が生じることも想定されていた。 しかしながら、3月のEU首脳会合の決定と前後して、ECBは現在の受入担保最低基準を2010年末を超えて維持する考えを示している。一方で、ギリシャの銀行は伝統的業務に終始し、貸出高に対する預金比率が80%を超えており、市場からの調達割合は少ないことから、銀行における影響は限定的との見方もある。 (2)国債発行の状況 また、ギリシャ国債は国内よりも国外での運用が多く、他のEU加盟国の金融機関が有しているケースもあり、ギリシャ国債の格下げはEU内の金融機関にも影響が出るとの観測もある。2010年4月・5月において230億ユーロ分の国債償還期限があるとされており、ユーロ以外のドル建てや円建ての国債発行も視野に資金調達手段の多様化も検討されるなどギリシャ財務当局も積極的な姿勢を示したが、一時ギリシャとドイツの10年国債利回りスプレッドが400bpを超えるなど調達コストの上昇という厳しい環境にも直面している。 1月に80億ユーロ分の5年国債発行に成功し、3月の追加的経済施策公表翌日にも50億ユーロ分の10年国債募集が実施され、150億ユーロの応募があったが、依然利率は6%を超えていた。3月のEU首脳会合後にも、ギリシャは 50億ユーロ規模の7年国債を発行したが、利率は5.9%となっている。 4.今後の見通し EUにおいてはユーロ防衛の必要性は認識しながらも、ユーロ参加国の国民が他国の財政赤字負担を強いられることへの疑問やモラルハザードへの懸念もある。共通金融政策をとるユーロ圏において、各国財政への対処という問題を露呈したケースと言える。ギリシャが実体経済回復を目指してユーロ圏(EU)脱退*d という選択肢も理論的にはあり得るが、その場合ギリシャ通貨の大幅下落や外貨建て債務の膨張、インフレ等が懸念されるため現実的ではない。 今回、最終的手段としてのIMFとユーロ参加国による協調融資が合意されたが、今後の状況の変化により、各国財政への EU による関与、共通金融政策を行っているユーロ圏の国内財政問題へのIMFによる正式な関与がどの程度のものになるか注目される。 ギリシャにとって2010年中の約540億ユーロ調達の必要性、計画遂行へ努力する必要性に変わりなく、当面は国債による必要資金の調達が大きな課題と言える。 EU 首脳会合後のギリシャ財務副大臣は「更なる追加経済措置はない」と述べた旨報道されているが、厳しい環境に耐え得る国内の持続的な競争力強化や構造改革とともに、意識改革も求められる。
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