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2013年3月
1.概況
2012年第4四半期のキプロス経済は、建設業や製造業などの第2次産業や貿易業・運輸業の低迷が続き、GDP成長率は前年同期比3.4%減となった。
キプロスでは2月に大統領選挙が実施され、アナスタシアディス民主運動党(DISY)党首が当選。アナスタシアディス新大統領は、2012年6月にEUに要請したキプロス支援に関し、トロイカとの合意成立に向け積極的に取り組む姿勢を示し、状況が前進すると期待されていた。
しかし、3月15日に開催された臨時ユーログループ会合にて、キプロスは融資100億ユーロを受ける条件として、銀行預金課税(10万ユーロ以下の預金に6.75%,10万ユーロ以上の預金に9.9%を課税)を導入し、徴収分(58億ユーロ)を銀行の資本増強に充てるよう求められた。
この異例の決定は市場に大きな衝撃を与えるとともに、キプロス国民の強い反発を呼び、キプロス国会は3月19日、銀行預金課税に関する法案を賛成0票、反対36票、棄権19票で否決。キプロス政府は、必要資金58億ユーロを確保するための代替案を模索すべく、各政党、中銀関係者等と協議を重ねる一方、サリス財務大臣をロシアに派遣し、既に実施された25億ユーロの二国間融資返済条件の緩和や国内銀行の買収などの支援を求めたものの、進展は見られなかった。
政府は代替策として、資金調達のための基金創設(公有財産や教会財産等の活用)に関する法案の他、ユーログループ側の強い要請を受け、改めて銀行預金課税(10万ユーロ以上の預金)及びキプロス・ポピュラー(ライキ)銀行の再編、金融安定(緊急時に流動性制限等を実施する枠組み)に関する法案を策定し、22日国会で可決した。 同法案の内容は25日のユーログループ会合で承認された。キプロス・ポピュラー(ライキ)の再編については、グッドバンク・バッドバンクに分割し、前者に優良債権と非付保預金(10万ユーロ以下)を移行しキプロス銀行と統合して再生させ、後者に不良債権と非付保預金(10万ユーロ以上)を移行し精算する計画となっている。ユーログループ側は、キプロスのGDPに比して同国の銀行部門の規模が過大であるとして縮小を求め、キプロス銀行、キプロス・ポピュラー(ライキ)銀行及びヘレニック銀行のギリシャ支店については3月26日、ギリシャのピレウス銀行が5億2,400万ユーロで買収することが合意された。国内の銀行業務はユーログループ会合後の3月16日から27日まで、混乱回避のため休業となり、その間取引が停止していたが、28日から再開された。一方、銀行の再開とともに預金引き出しや国内外への支払及び送金を制限する取引制限措置が実施され、段階的に緩和されつつも現在も継続中である。(その後、4月2日、キプロス政府とトロイカは、融資実施にあたっての財政再建措置を含むMOU案について合意し、同MOUは12日のユーログループ会合で承認され、100億ユーロのキプロス支援(ESMから最大90億ユーロ、IMFから最大10億ユーロ)が決定した。)
2.財政
財務省の発表によれば、2012年第4四半期の歳入は20億3,760万ユーロ(前年同期比7.7%増)となった。また、歳出は25億7,610万ユーロ(前年同期比3.7%増)となり、財政赤字は5億3,850万ユーロ(前年同期は5億9,240万ユーロの赤字)となった。
主な歳入は、生産税及び輸入関税による税収が7億4,170万ユーロ(前年同期比8.7%増)、VATによる税収が4億1,550万ユーロ(同17.9%増)、所得税及び富裕税による税収が5億5,820万ユーロ(同5.1%減)となった。一方、歳出については、公務員人件費が8億3,670万ユーロ(前年同期比3.8%減)、社会移転が7億7,700万ユーロ(同9.5%増)となった。
3.主な産業
(1) 観光業
2013年2月の観光客数は4万2,327人(前年同月比23.6%減)となった。個別には、英国からの観光客が1万5,232人(前年同月比26.9%減)、ギリシャが6,540人(同9.3%減)、ロシアが4,098人(同3.6%減)、ドイツが3,719人(同55.9%減)となった。一方、イスラエルからの観光客が増加し、1,506人(同146.5%増)となった。
(2) 建設業
2012年1月~12月の建築許可証発行数は、7,172件と前年同期比4.4%減となった。
4.その他
キプロス国債及び銀行の格付け状況
ユーログループによるキプロス支援策の決定は、キプロス金融セクターへの不安を高める結果となり、大手格付け会社が立て続けにキプロスの各種格付けを引き下げている。
まず、3月21日にはスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が同国の長期信用格付けを「CCC+」から「CCC」に、翌22日には、ムーディーズがキプロス主要3行(キプロス銀行、キプロス・ポピュラー(ライキ)銀行、ヘレニック銀行)の預金及びシニア無担保債の格付けをそれぞれ「Caa2」から「Caa3」に一段階引き下げた(その後4月12日には更に預金について「Ca」(見通しはネガティブ)に、シニア無担保債は「C」に格下げしている。)。
格付け会社フィッチも、3月26日にキプロスの長期外貨建及び自国通貨建発行体デフォルト格付(IDR)をそれぞれ「BB-」から「B」に、キプロス国内での資本規制の実施を受け、カントリー・シーリング(国内で活動している企業の格付けの上限となるもの)を「AAA」から「B」に引き下げた。また同社は28日、キプロス銀行、キプロス・ポピュラー(ライキ)銀行の不動産担保証券格付けをそれぞれ「B+」から「B」に格下げした。
5.経済指標
(1)GDP成長率
2012年第4四半期のGDP成長率は前年同期比-3.4%となった。
(2)消費者物価指数
2013年3月の消費者物価指数は前年同月比1.1%の上昇となった。
(3)失業率
2013年2月の失業率は、14.0%となった。
出典:(1)及び(2)キプロス財務省、(3)EU統計局(ユーロスタット)
※各種公表資料・報道等参照
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