2012年6月
1.概況
2012年第1四半期のキプロス経済は、建設業や製造業などの第2次産業や貿易業・運輸業の低迷を受け、GDP成長率が前年同期比1.6%減となった。また、PSIによるギリシャ国債の債券交換に応じたことによりキプロスの各銀行は深刻な影響を受けた。欧州の銀行には6月30日までに中核的自己資本率9%を確保することが求められており、このため、キプロス国会は5月、国内銀行の資本増強支援のための法案を可決した。しかし、名目で約180億ユーロにすぎないキプロスにとって銀行の資本増強負担は重く、キプロス政府は、ロシアや中国から二国間融資を得るべく両国と協議を行う傍ら、25日にユーロ圏に対して、27日にはIMFに対して支援を要請した。現時点(6月末)では、いわゆるトロイカによる支援の範囲が銀行の資本増強のみにとどまるのか、ギリシャのように政府財政をも含めた包括的なものとなるのかは未確定であり、7月から行われるトロイカによる調査及び中国、ロシアとの二国間融資をめぐる協議の結果を踏まえて決定されることになるとみられる。
2.財政
財務省の発表によれば、2012年第1四半期の歳入は17億5,600万ユーロ(前年同期比9.5%増)、歳出は19億400万ユーロ(前年比0.6%減)となり、財政赤字は1億4,800万ユーロ(前年同期は3億1,070万ユーロ)となった。
主な歳入は、生産税及輸入関税による税収が6億270万ユーロ(前年同期比2.4%増)、VATによる税収が3億4,220万ユーロ(前年同期比4.5%減)、所得税及び富裕税による税収が5億4,030万ユーロ(前年比26.6%増)となった。一方、主な歳出は、公務員人件費(社会保障費、年金等を含む)が6億7,260万ユーロ(前年同期比3.9%増)、移転支出が5億8,360万ユーロ(前年同期比6.4%減)及び中間消費が1億9,950万ユーロ(前年同期比1.7%減)となった。
3.主な産業
(1)観光業
2012年5月の観光客数は27万6,781人(前年同期比3.5%増)となった。個別には、ロシア及びスウェーデンからの観光客が、それぞれ5万3,671人(前年同月比31.6%増)、1万6,856人(前年同月比13.8%増)と二桁の増加となった。一方、英国及びギリシャからの観光客は減少し、それぞれ11万3,289人(前年同月比5.4%減)、1万1,446人(前年同月比4.7%減)となった。
なお、2012年4月の観光業による収益は1億1,460ユーロ(前年同月比16.1%減)となった。
(2)建設業
2012年第1四半期の建築許可証発行数は、1,996件と前年同期比3.9%減となった。
4.その他
(1)キプロス国債の格付け
3月13日、格付け会社ムーディーズは、キプロスの銀行セクター及び同国の調達状況に対する懸念を要因として、キプロス国債格付けを「Baa3」から「Ba1」(ジャンク級)に引き下げ、見通しをネガティブとした(6月13日には、同格付けを「Ba1」から「Ba3」に更に引き下げた。)。 また、翌14日にはキプロス大手3行の格付け(キプロス銀行(Ba2→B1)、マーフィン・ポピュラー銀行(現キプロス・ポピュラー銀行)(B2→B3)、ヘレニック銀行(Ba2→Ba3))をそれぞれ引き下げ、キプロス銀行及びヘレニック銀行については見通しをネガティブとした。
一方、フィッチは6月25日、キプロスの国内銀行の資本増強に必要とされる資金額が当初予測より大幅に増加したとし、キプロスの長期の外貨及び自国通貨建て発行体デフォルト格付け(Issuer Default Rating)を「BBB-」から「BB+」(ジャンク級)に引き下げた。今回のフィッチの格下げにより、大手格付け会社3社のキプロス信用格付けがジャンク級となった。これについてキプロス財務省は、非常に重要な決定がなされたとの認識を示しつつ、同政府が直面する問題解決のため、中央銀行と協力して財政目標達成及び必要な財源の確保にあたるとの声明を発表した。
5.経済指標
(1) GDP成長率 2012年第1四半期のGDP成長率は-1.6%となった。